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東京高等裁判所 昭和52年(行コ)28号 判決

東京都台東区松が谷二丁目一四番七号

控訴人

岡島次郎

右訴訟代理人弁護士

中條政好

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被控訴人

浅草税務署長 北川烈

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

高橋実

棚橋勉

斎田信

右当事者間の昭和五二年(行コ)第二八号青色申告承認取消処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四二年三月八日付でした昭和三八年分以降の所得税についての青色申告承認取消処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、当審において控訴人が

「一、本件処分は不正の目的を有する無効のものである。

二、旧国税通則法第七六条第五項一号は、不服申立についての決定又は裁決その他この節又は行政不服審査法の規定による処分については同条第一項の規定にかゝわらず異議の申立をすることができないと規定しているから控訴人がした本件青色申告承認の取消処分に対しする異議申立については同条第一項の適用はない。

三、行政不服審査法第二〇条は処分庁が当該処分について異議申立ができる旨の教示をしなかつたときは、異議申立は審査請求の前置としては不要であると規定しているところ本件青色申告承認取消通知書には全く教示の記載を欠くから、控訴人のした審査請求は異議の前置を欠く不適法な請求としてこれを却下することができないものである。」

と述べ被控訴人において

「一、旧国税通則法第七六条第五項一号に規定する処分とは、異議申立についての決定又は審査請求についての裁決その他旧国税通則法第八章第一節(不服審査)又は行政不服審査法の規定による処分をいうものであつて本件取消処分に対する異議申立は同号にいう処分に当らない。

二、本件取消処分に対する不服申立については、旧国税通則法第七六条第一項の規定が適用されるものであつて、同法第八章第一節に定める部分については行政不服審査法の適用はない(旧国税通則法第七五条)のであるから行政不服審査法第二〇条の適用を前提とする前示控訴人の主張はその理由がない。

ちなみに、旧国税通則法第七九条第二項第一号は行政不服審査法第二〇条と同旨の規定であるが、その内容は文理上明らかなように原処分につき異議申立をすることができる旨の教示がない場合に、当該処分の名宛人は審査請求をすることができると規定しもつて当該名宛人は不服申立の方法として異議申立によるか審査請求によるかそのいずれかを選択し得る途を開いているにとどまり、不服申立期間の遵守を不必要なものとしたり、また、取消訴訟の提起に当つて不服申立の前置を不必要とする定めをしたものではない。」と述べたほかは原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

理由

当裁判所も控訴人の本件訴えは行政事件訴訟法第八条第一項ただし書でいう適法な審査請求に対する裁決を経ていないものであり、かつ同法第一四条所定の出訴期間を徒過した不適法のものと判断するが、その理由は左記一ないし三を附加するほか原判決の理由と同一(ただし原判決書一二枚目裏五行目の「国税通法」とあるを「国税通則法」と、同一三枚目表七行目の「一一四条」とあるを「一一五条」と各訂正する。)であるからここにこれを引用する。

「一、控訴人は本件処分は不正の目的を有するものであると主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。

二、旧国税通則法第七六条第五項第一号にいう処分とは異議申立についての決定又は審査請求についての裁決その他旧国税通則法第八章第一節(不服審査)又は行政不服審査法の規定による処分を指すものであつて本件取消処分に対する異議申立は同号にいう処分に当らないことは明かであるからその然らざることを前提として右異議申立につき同条第一項の不服申立期間に関する規定の適用がないとする控訴人の主張はその理由がない。

三、控訴人は本件審査請求につき異議の前置を要しないものとして行政不服審査法第二〇条の適用につき云々するところ、なるほど本件における前示審査請求は昭和四五年法律第八号による改正後のものであるが本件における前示の異議申立期間については前示のように旧国税通則法第七六条第一項が適用され同項によれば右改正法施行前に右異議申立期間が経過したものとなる関係上右改正法附則第六条の反対解釈によつて旧国税通則法第七五条が適用される結果本件の前示審査請求について行政不服審査法第二〇条の適用をみるとしても同条はその第一号に該当する場合、すなわち処分庁が当該処分について異議申立をすることができる旨の教示をしなかつた場合においては当該処分の名宛人は異議申立についての決定を経た後でなくても直接審査請求ができる旨を規定し、これによつて右の教示を受けなかつたために異議の段階を履まなかつた処分の名宛人を救済しようとする審査請求における異議前置の原則の例外規定であるに過ぎないから本件における控訴人の前示の審査請求のように一旦は異議の申立をしたがその異議の申立が異議申立期間経過後の不適法な申立として却下されその結果異議申立についての決定があつたとされない場合とはその適用の場合を異にし本件における右審査請求については同条に該当する余地はなく、従つて右審査請求が異議申立に対する決定という前置を欠くものとして不適法と判断するについてあえて同条に触れる要を見ない。

また若しこの点に関する控訴人の主張を善解して本件処分は元来国税に関する法律に基く処分であるから旧国税通則法第七九条第二項一号(本件における前示の審査請求については前示のように旧法適用)の規定が適用されるべきであるから異議申立について何等教示がなされていなかつた本件取消処分については異議申立についての決定を経ることなく適法に審査請求をなし得るものであるとの趣旨に解しても、同号は被控訴人が主張するように原処分について異議申立をすることができる旨の教示がなされなかつた場合においては当該処分の名宛人は異議申立または審査請求のいずれかを選択することができるものとし、若し処分の名宛人において異議申立に対する決定前置の原則にかゝわらずその決定を経ることなくして直接審査請求するという不服申立の方法を選択したときはかゝる異議申立に対する決定の前置を欠く審査請求をも適法とする旨を定めているにすぎないものであるから、本件のように控訴人が原処分に対する不服の方法として異議の申立を選択しその異議の申立が申立期間経過を理由に不適法として却下されたためその審査請求において異議申立についての決定という前置要件を欠くことゝなる場合には同条を適用する余地はない。のみならず本件の右審査請求は同条第二項所定の不服申立期間経過後になされたものであるから所詮不適法として却下を免れないところである。」

そうすると控訴人の本件訴えを不適法として却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用について民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 舘忠彦 裁判官 高林克已 裁判長裁判官植村秀三は任期満了退官のため署名捺印することができない。裁判官 舘忠彦)

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